無題
9年前の冬。雪の朝、あなたを雪の中に立たせて写真を撮りましたね。あなたはその写真もう捨ててしまったでしょうか。僕は写っていないけれど、あなたが見ていたのはカメラを構えた僕だったから。僕の存在を感じさせるものはきっと全て捨ててしまったでしょう。彼もいい気分ではないだろうしね。前に進もうとしているあなたは、僕といることで無理やり時間を止めさせられ、苦痛を感じていたでしょう。僕と別れ、彼と歩き始めたあなたは、僕という呪縛から解き放たれて、生き生きと時間に乗って流れて行くのでしょう。もう僕からは見えないところまで行ってしまった…。僕?僕は別れた時と同じ場所にいます。9年間、一歩も前に進まずに…。はじめはほんの少しのほころびでした。それが徐々にほつれ、二人が辿りつく場所を分けたのでしょう。あなたはきっと僕といても、幸せにはなれなかった。僕は幸せでも、あなたは幸せではなかった。片思いでは恋愛は成り立たない。出会った頃は僕にもキャパがありました。けれど僕が精神を病み、どんどん弱っていって、あなたの気持ちを気遣う心の余裕がなくなってしまった。最後のほうは僕はもう、あなたの負担でしかなかった。これでよかったんですよね。これで…。
僕は別れてから4年間は、東京にいました。今は東京を引き払って実家にいます。ドライブであなたの実家の前を通るたび、胸を引き裂かれる思いです。でも、これでよかったんですよね。あなたは僕のことなんか、忘れてしまったでしょう。僕は未だ、立ち直れていません。あらゆることから…。このまま死んでゆくのでしょう、弱い僕のまま。元気でね…。